事象の海綿 モデル(a,b,c,d,e,f)

事象の海綿 モデル(a,b,c,d,e,f)
2015 8
テキスト テグス サビキカゴ 針金 網カゴ 台
サイズ 可変

パイプについての連作 の続編にあたる

宣言文/イメージ
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言語は引用のシステムだとかなんとか言う偉大な作家の言葉をツイッター上で発見し、リツイートでもするように軽薄にここで引用してみる。
言葉や絵が意識の像だとか言う考えもどこかの思想家が言っていたようだ。
畏れ多いことであり、かつ極めて普通のことでもあるのだろうが、伝言ゲームのプレイヤーとして、それらを引用し剽窃しよう
しかし、そこにごく僅かでも伝達可能な時空の捻れを引き起こせたなら、通過点としての野心は満たされることになるわけだ。
あつかましい流域、巨大な魚はそこにいる

事象の海綿 テキスト/オブジェクト
—–

2010.3/31
踊り狂っていたあの狂騒は一体なんだったんだ、、?
あのジジイ、ほんと何者なんだ、、?
あいつ結局パイプではないとしか言わなかったんじゃないか、、?それにどこに消えた
そもそも、なんで俺はクラブになんか行った?
あの鬱屈していた気分は……そりゃあ
すっきりはしたけど、アタマが痛い……
レッドブルとフォアローゼズなんて最悪のカクテル、ガブ飲みしやがって
、、、
だからそれはパイプじゃねえよ!酒だっつうの!
ほんと、一体何歳なんだよあのジジイは、、一億とんで七十五歳です?、てめえどこでそんなネタ聞いた、、。
踊り狂って、最後はむしろ俺の方が合わせてやって、、
結局最後うちで寝かせることになって、、
あぁ、それに、欲しいっつうから買ってやった海苔弁とコンビニゼリーも結局食ってねえ、、
そうだ!それになんで俺があいつのゲロの始末しなきゃなんないんだって話、ん?でもなんで会社にまでいったんだ?まぁいい、そうだよ、会社の洗面台があいつのゲロで詰まって一杯になってるわけ、でもあいつもうすっかり寝ちまってるしさ、俺が掃除するしかないわけじゃんか、3時だよ?夜中の!
それでさ、とりあえずコーヒーサーバーの紙コップ見つけてゲロ汲んで便器に捨てるんだ、いやいやいや、すっぽん見つからなかったんだよ、それで最悪なのはそうやって汲み出すじゃんか、そうするとさ、その度に赤外線センサーが反応しちゃって、笑、水道がジャーってさ  ?
あはは、そうそう!そうなの!
あれ?これ全然減ってないっ!!てそん時気がついた  笑
これ夜中の3時よ!立ちすくんだね、洗面台の鏡の前でさ、呆然とした自分になにやってんのって……

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2010.4/6
記述の世界に3年後の彼は落としこまれたようだ  まったくもっていいご身分だ、俺は青空文庫から無料の共有された昔の言葉をよりあつめ、再び彼を呼びだそうと試みる
そりゃあ面倒な部分もある、また俺が介抱することになるわけだ、いや、介入?まぁ、それでも、言葉でもゲロでもなんでもふり撒いたらいい、何回でも俺が片付けてやる、いや、そのまま片付けなくてもいいのかもしれないな。エンドレスに編集するんだ、クラウドサービスにあげたこのテキストを、、ゲロゲロゲロ、、紙コップはどこだ、いや、間に合わない、もう出力だ、そうそう、これは経過をプリントアウトしたものなんだぜ?
、、また数年したら、いや?もっと早いか?そうだ、いつでも推敲してる、エンドレスに反芻ってやつだ、場所は教えないけど、とあるサーバーのとある領域で、静かに消化されてるんだ、あいつの言葉は、
そういえば、消化器ってのは確か体外の扱いなんだってな
そうだ、だから俺は部屋のなかにいる、そして部屋の外を工作する、そしてやつは現れない

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2010  4/25
ラボのメンバー達とO先生秘蔵の宝物を見せていただく、いくつかの貴重な生物の標本の後、パラフィン紙に包まれ引き出されたそれ

とっておきがな、これなんだ

…え!?なんですかこれ!?
すごい、ですね、生き物、、ですかこれ?
これ持っていいんですか?
ああ、いいぞ
これな、
偕老同穴っていうんだ

偕老同穴
英名をVenusflowerbasket
環形動物、ではなく
海綿の一種
ちなみにこのへんはそのあと見せていただいたもう1人のO先生の文章と、それに加えwikiからの引用、他にも他にもまぁ勿論それだけではないけど、キリはないので端折っておく

……まぁいい

偕老同穴だ

マリンスノーが静かにふり積もる深海の茫漠とした平原にひっそりとたたずむ一つの美しき調和

見るからに繊細な標本に、皆少々緊張しながらも
手に取りじっくりと眺め見る

長さ30cm直径6〜7cmくらいの円筒形、精緻なレース編みのような硝子繊維でできた閉じられたカゴ状になった骨格の構造
ミイラになった海老の死骸が二匹、どういうわけか構造の内側に閉じ込められている

文章で想像できないならイメージ検索しちゃってください

すごい、、
驚嘆

これ、生き物なんですか?
生き物なんだろうなぁ
どうしたらこんな造形になるんですか、自然物なんですよね?これ…。

あれ、これエビですか?
あ、ほんとだ
閉じ込められちゃうんですか?これ
食べられたんすかね?
どうなんだろうなぁ

赤くなってる
死ぬとやっぱ赤くなるんですね?
そこはエビなんだろうなあ  笑
可愛い!

これはつがいらしいんだよな
この中で二匹だけで一生を送るというんだ

ええ!?
絶句…

エビたちは偕老同穴の網目よりも小さいときにその中に入り込み、その後、雌雄が分化し、つがいとなる。つがいはそのまま成長し精緻な硝子の網目から外にでることができなくなってしまう。そして、生涯をこの壮麗な、そして慎ましい檻のなかで過ごす。二人は二人の為、外界との交渉を断絶する。
こんな奇跡的な愛のかたちと、不可思議極まる生命の営みが何千年、何万年なのだろうか人知れず、千メートルの深海では繰り返されているのだという

彼女は丸まったまま変わらない表情で、硝子の繊維越しに俺の掌の上に転がっていた

不思議かしら、こんな暮らし方って

彼女はからからに縮んだ身体で俺に語りかける。

納得してない表情ね、息苦しい生き方なんて思うのかしら、でもあなた真っ暗闇の深海で独りで居られる?
そんな寂しい思いするくらいならこうしちゃった方がいいのよ、しゃべり相手は欲しいでしょう?それにセックスだって  ね。

人前でセックスだなんてお前、、
夫エビも乾燥しつつ真っ赤になって応える

まぁ、それはすれ違いや、言い争いなんかだってあるわけだけど、意外と慣れるものよ?

会社でも学校でも家族なんかでもいいけど、そういう共同体こそ現代社会は求めているのだ!なんてことみんな言うわけでしょ?
そのくせ私たちのこんな生き方には怪訝な表情するんだから都合いいわよね、同じことじゃない
まぁ確かに古風よ、わかるわ、面倒な部分は確かにあるものこういうのって
それにセックスもね

お前、だから人前でそんなこと、

でも、あなたたちだって数千年前やらそういう遠い昔に自ら檻を作って入っていった  そうよね?
それで、誰かと、お互いから聞いたことを話のネタにおしゃべりをして、
それが例え誰かから聞いた大して意味もない内容を繰り返し喋っているだけだとしてもね、
それにセックスも

お前、人前で、恥ずかしいよ私は、、

今の「私」にしても俯瞰してるように装って喋っているけど、恐らく大差はない、「あなた」の読んだ言葉を紡ぎ直して喋っているだけ。
そのシンプルな循環する運動を手に入れたことで世界と私たちは初めて同じ地平に立ち現れた。私たちがおしゃべりをすることであなたもわたしもこれに表れているわけでしょう、だからここが私たちそのものとも言えるかもしれない
この運動する機関が必要なのよ、私にもあなたにも
そうよ、運動は静かに熱を帯びていく
そうよ、そうなの、セックスも静かに熱を帯びて…

人前だっての
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ラボの外では、既に日も暮れ郊外の夜は静かに更けていく
深海の暗黒は、、或いは今も静かにしんしんと降り積もるマリンスノーは、私たちのおしゃべりを防音室のごとく寡黙に吸い込んでいく

若しくは、本当は硝子の精緻な構造のほうこそが音を吸い取って立ち上がる仕組みだったのかもね

違うな、それは安易なイメージ、決めつけたらいけないな、なにも完全に外側と断絶しているわけではない

そりゃあそうだ、閉じたループ、完全な鸚鵡返しで会話になるなんてことがあるっての?まぁ、意味なんてないのはわからないではないけど

言葉はお互いを示すだけとか言うわけでしょ?似たようなことなんでないの?

どうかな?状況考えても向こう側に声が届いているって思える感覚は、理解できないのだけど、だったらそっちに行っちゃったほうがいいんじゃないの?

そっち?どこだよそれ、形式の外なんてあるのか??言語の外ってこと言ってるの?

いや、もうなんでもいいよ、価値観を押し付けるんじゃないよ、この生き方でいいんだよ、意地はってるとかじゃないんだ

レース編みの完璧な幾何学模様の網目は掌の中、圧倒的な壁面を目前に全視野を支配され立ち位置を見失う感覚をひきおこしたアラベスク、くらくらしてしまう

昔はこれが夫婦円満の縁起物としても取引されてたようだな
ははぁ、確かにそういう希少感ありますねぇ。
しかし、どんな気持ちでこいつらこんなかに入るんですかねぇ、、
ちょっと、「重い」  ですよここまでいくと
ふふふ  ほんとだね

俺は檻の外側から彼女に語りかける

あらためて檻に入るって?入ってるじゃない既に、あなた檻の中にいるのよ?

いいわよ、自覚するのは必要かもね、でもそれで話せるのかなんて知らないわよ

硝子の構造はパイプになり、そして帽子へと形を変える
1人の俺はそれを被り、その瞬間、それまでの言葉のすべては表され、無限に乱反射する完璧な熱量の光景を眺め見る、
銀色だった繊維の網の目はさらに細かい単位へと編みこまれ黒の、しなやかなフエルトの黒に彩られる
…レディメイド?お前今度はデュシャンの言葉を真似るのか?境界面のきわ、俺は確かにその声を聴いた(喋っていた)

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2013  6/7
俺はベランダに立つ彼の前に立っていた  笑いながら彼の訝しげな目に語りかける
……

……
これは、、

これはパイプではない

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2010.5/3
パイプの裏側

俺はそれの裏側から表側を見ていただけだ、いや、俺がいたからそれが表と言えるのか?
そもそも俺自体はそこに居たのだろうか?
蠕動する繋がった壺の対称面、ベッタリと寄生虫のようにはりついた俺はエンドレスに彼の彼女の言葉を真似る
その真似事の言葉をもってまた境界から彼女に彼に向かいしゃべり続ける
静かに立ちあがる事象の海綿、硝子繊維の網目状の構造物
俺の手の内で俺を包み込む数種の構造が組み上がる

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サビキ釣りって言うんだよ、
サビキ?なにそれ?
この釣りの仕掛けの名前だよ、この網カゴから
この小さいエビを振り落とすじゃん?ほら
そうすると、、、きたきた!鯵じゃないかなあれは?群れてきたよ見える?
うわー、ほんとだね  これ釣れるの?
釣れるよ、ほらきた!
僕は受け売りの知識を披露する
初夏の海風が爽やかに吹き抜ける、僕たちのおしゃべりは風にふかれ、房総の山間にほどけていくのでした

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